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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)241号 決定

第二四一号事件抗告人

柳沢成和

第二七一号事件抗告人

玉井辰夫

右玉井辰夫代理人

斉藤一好

山本孝

主文

第二四一号事件について

本件抗告を却下する。

第二七一号事件について

本件抗告を棄却する。

理由

昭和五六年(ラ)第二四一号事件について

本件競落許可決定に対し抗告することができる者は、民事執行法附則第二条の規定による廃止前の競売法第三二条第二項により準用される前記附則第三条の規定による改正前の民事訴訟法第七〇二条、第六八〇条第一・二項、前記の競売法第二七条第四項に定める利害関係人、競落人又は入札人に限られるが、記録によれば、抗告人は右のいずれにも該当しないことが明らかである。

よつて、本件抗告は抗告権を有しない者が提起した不適法なものとして却下することとし、主文のとおり決定する。

昭和五六年(ラ)第二七一号事件について

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、その理由は、別紙記載のとおりである。

よつて、審案するに、一件記録によれば、本件不動産競売事件においては、原裁判所から賃貸借の取調べを命ぜられた東京地方裁判所執行官が、原裁判所に対し、概要抗告人玉井主張のとおりの賃貸借取調報告書を提出し、右報告をふまえて目的不動産(宅地二筆及び建物一棟、右建物を以下「本件建物」という。)の評価がなされたうえ、該不動産についての「賃貸借関係不明(但し所有者の姉玉井和子が同人の家族と共に使用中である。)」とする入札及び競落期日の公告がなされ、それを前提として入札が実施され、これに基づいて原決定のなされたことが認められる。

抗告人玉井は、本件建物の居住者玉井和子が賃貸借の取調べに当つた前記執行官に対して送付した債務弁済契約公正証書(写)には、債務者株式会社ジェイス・エンタープライズの連帯保証人として玉井辰夫が記載され、かつ借受金の利息を年八分とし、毎月二八日限りその月分を支払うものとするが、債権者(玉井和子)が本件建物に居住する間はその家賃と相殺する旨明記されており、右公正証書の記載と玉井和子の占有していること自体から、同人の本件建物に対する賃貸借関係の存在は明白であるのに、これを不明としたまま競売手続を進め、これに基づいてなされた原決定は違法であると主張する。前記賃貸借取調報告書には前記公正証書(写)が添付され、該公正証書には同抗告人の主張するとおりの記載のあること、並びに玉井和子がその家族と共に本件建物を占有使用していることは、記録上明らかであるが、前記公正証書には、本件建物に関する賃貸借成立の年月日、存続期間はもとより賃料の額及びその支払方法についての記載を欠いている(もつとも、右公正証書の記載によれば、賃料月額と借受金の利息の月額とが相等しいと解する余地がないでもないが、必ずしも明確でない。)のみならず、前記賃貸借取調報告書によれば、前記執行官において玉井和子に対し賃貸借の内容につき説明を求めたが、明確な回答を得ることができなかつたというのであるから、たとえ同人がその家族と共に本件建物に居住しているとしても、果してそれが賃借権に基づくものであるか否か疑念の存することは免れず、他に同抗告人の主張する賃貸借の内容につきこれを明確にする資料は存しないのであるから、原裁判所において「賃貸借関係不明」として本件競売手続を進めたことを一概に違法であるとすることはできず、記録を精査しても他に原決定を取り消すべき事由を見出すことはできない。

よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(杉田洋一 中村修三 松岡登)

〔抗告人玉井辰夫の抗告の理由〕

一、本件競売事件について、東京地方裁判所執行官森猛の昭和五四年一〇月一七日付賃貸借取調報告書によれば、「本件建物の居住者玉井和子の電話による陳述要旨」として、要旨、次の記載がある。

賃貸借関係については、玉井和子が、件外(株)ジェイス・エンタープライズ(代表者玉井辰夫)に対して有する貸金債権金九二〇万円の利息の支払いと、本件建物の家賃とを相殺する方法により支払つている。

と陳述し、別添公正証書(写)を送付してきた。

調査の結果、本件建物に玉井和子と同人の家族が居住している事実ならびに別添債務弁済契約公正証書が作成されている事実は認められる。しかし、内部的な実体関係について説明を求めたが明確な回答を得ることができなかつた。よつて、本件賃貸借関係は不明として報告します。」

右事件の鑑定についても、右の調書をふまえて鑑定がなされている。

二、しかしながら、右公正証書には、債務者株式会社ジェイス・エンタープライズの連帯保証人として玉井辰夫が記載され、かつ、その第二条の二には「利息を年八分とし、毎月二八日限りその月分を支払うこと但し債権者が第五条記載の物件(本件不動産)に居住する間はその家賃と相殺するものとする。」と明記され、右公正証書の記載と、玉井和子の占有自体から、玉井和子の本件建物に対する賃貸借関係の存在はきわめて明白である。

そうとすれば、このことを看過し、執行官の不十分な調査を前提にした本件競売の実施と、これにもとづく競落許可決定は違法であり、取消されるべきである。

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